シカのトラウマ
トラウマの語源はギリシャ語 "trauma"(傷)でそのまま【外傷】という単語だったらしい。それが19世紀に【外部から付けられた心の傷】と意味する比喩表現としてフランスで取り入れられ、さらに英語圏で心的外傷として体系化されていった。大半の日本人にとっては、【又聞きを繰り返して伝わってきたばかりの外来語として広まった】のであり、その手の言葉にありがちな様に、本来の意味を理解してたうえで使われてきたとは言えない単語である。
私が一番欲しいもの
子供は子供どおし
子供の頃初めて何か一人でやり遂げたことを憶えているだろうか。
5歳の娘が『一人でじいじばあばの家に行く』と言い出した。5分間の買い物の間も一人家で留守番するのが嫌でついてくるあの娘がである。
それはひょんなきっかけから始まった。
同じクラスのランちゃんと保育所の帰りが同じになった。ランちゃんのお母さんは日本人離れしたダイナマイトバディーにブルマ並みのショートパンツとパーカーのフードを被ったストリート感漂う出で立ちで、ふくら脛にはがっつりタトゥがあるブラジリアン風な顔立ちのファンキーマザーである。そんなファンキーなマザーなのだから子ももちろんファンキーなガールである。
そんなファンキーなガールのランちゃんが得意げに『家まで走って帰るねーーーん!』
(イエーーイ!ヒューヒューー私ってすごぉおーーーい)
と言った。()内は私の脳内イメージ。
ん??なんか嫌な予感だぞ。。。
と思っていたら案の定、負けず嫌いな娘ヤル気スイッチ オン!
『なっちゃんも走って帰るわ』と言い出す。
そうなるよねー…
め、め、めんどくせぇ・・・・(私)
『なっちゃん、もう真っ暗だし、寒いし、じいじばあばん家行くし、今日は自転車乗って帰ろう』と一刻も早く帰りたい母なだめるもヤル気の炎にメラメラ包まれた娘を鎮静化することはなかなか難しい。そんな母と娘のモタモタしたやりとりをよそ目にファンキーマザーとガールは『さよならーーーー』『ばいばーーーい』と言ってとっとと走って行ってしまった。
完全な置いてけぼりを食らった母娘、娘はこの行き場のなくなったヤル気をどうすればよいのかわからない面持ちでノリノリで走っていくランちゃんを見ながら突っ立っている。
仕方ない…
『なっちゃん、今度のお休みの明るい時間にじいじばあばの家に1人で行ってみたら?』
と新たな提案で気をそらす作戦である。これが思いのほか効果テキメン。
なっちゃんが一人で・・・
なっちゃんが1人で・・・
なっちゃんが一人で・・・
未知なる挑戦 、この新たな提案に再びなっちゃんにやる気の炎がついたのでした。
ボッッ!
自転車の後部座席に飛び乗り
『ばあばの家早く行こう!なっちゃんお腹空いたわ。』
気持ちの切り替え早っ!さっきまでのランちゃんとのやり取りは無かったかのような変わり様である。ずるずる引きずるのは大人だけだ。
ばあばの家までの間ずっと
『なっちゃん今度のお休みに一人でばあばの家行くわな! 』
と言い続ける娘。新たな挑戦に向けてドキドキワクワクが止まらないっといった感じである。
後日無事にミッションをクリアした娘。
その裏では心配してコソコソと後をつけた母親と、心配しすぎて到着予定時刻より随分と前から(まだこない、まだこない)とベランダから身を乗り出し実況中継の電話をしてくるじいじ、玄関前ではばあばが待ち構え、無事に着いたと祝メールを送ってくるおばちゃんなど、多くの大人たちを翻弄しまくっていることを本人は知らない。
そしてこの成長の機会を与えてくれたファンキーガールのランちゃんに感謝したのだった。
院長と欽ちゃん走り
私が勤める会社は9階建てのオフィスビルの中にある。
そのビルの屋外階段は常時セキュリティーがかかっていて、1階部分はエントランスホールからは鍵がかかっており階段で上ることは不可能なセキュリティ計画となっている。なので上がる時は必然的に一基しかないエレベーターを使用しなければならない。
そんなセキュリティ計画に猛烈に物申す人がいる。2階テナントの内科クリニックの院長である。
毎朝出勤時間が重なり、慌ただしく出勤してくる院長とエレベーターホールでよく一緒になる。いつも急いで上がるボタンを押す院長。そこでタッチの差で運悪くエレベーターが行ってしまい、さらに運悪く9階まで行ってしまい、挙句の果てに停止しながら下りてくるエレベーター。その間、ベルトを直したりズボンの位置を直したりと苛立ちながらエレベーターを待つ院長の三歩後ろであくびをしながら ぼけーーー と突っ立っている私。特に挨拶をする仲でもなく、でもお互いは知っているという微妙な距離感がこの三歩に現れている。
2階であれば階段でタターーっと上りたい気持ちは分からなくもない。急いでいるので尚更である。がしかし、もっと早く出勤すれば良いのでは??と思ったりもする。というかそうすべきなのだ。解決策はあるのに・・・・やれやれという印象である。
そんな院長と珍しくお昼休みに出くわす。お昼もやっぱり慌てていて中に居た私は閉まりかけていたドアを慌てて開けてやる。
(院長) あ、どもども
(私) あ、いえいえ
何年も朝一緒にエレベーターを乗ったにも関わらず、ずっと漂っていた3歩の距離感が初めて打ち破られた瞬間だった。
院長は二階なので本当に僅かな時間なのだが、その間も首をコキコキ鳴らして『あっ、首が鳴った』とか言ったりしてそわそわしている。相変わらず落ち着きがない。エレベーターが二階に着いて開けるボタンを押してあげた。院長はやっぱり慌てた様子で体はほぼエレベーターから出ているのだが顔だけはこちらに向け
(院長) ありがとう!!!!
と言って欽ちゃん走りで元気に走り去ったのだった。
人って、急いで居る時に何かを言い残そうと振りむいたら欽ちゃん走りになるんだなーーーと思わずニヤリとしてしまった。
それにしても欽ちゃん走り、あのコミカルな動き、恐るべき破壊力である。今までのどちらかと言うと鬱陶しいと思っていたオッサンのイメージが崩れ、一気にオモシロおじさんに昇格したのだ。どんよりした空気の時は私も欽ちゃん走りしてみようかしら…場が和むかもしれない。
お互いに何となく漂っていた3歩の距離は縮んだような、縮めていいような、ちょっとほんわかした空気感と、今ランチで食べてきたであろう炭火焼肉の臭いが残ったエレベーター。
さすが院長、昼からええもん食べてるなーーーー!!!
みんなに断られる話
両手いっぱいの柿は私一人のものになったのでした。めでたしめでたし。
久々な人
先日三年ぶりくらいに昔一緒に仕事をさせて頂いていた方が会社に顔を出してくれた。
その人はおそらく60歳くらいになるだろうか。もう会社をたたんでリタイヤするという事でわざわざ挨拶を兼ねての今回の訪問であった。不動産収益が本職でその分野で執筆や講演活動もされていた言わば先生と呼ばれる立場の人だ。もともとは財務省官僚であり、退屈なので辞めて民間のスーパーゼネコンで営業の実務経験を積み、独立した賢い方だ。もともと60歳くらいでリタイヤする事を目標とされていたようで、この度見事にその目標を達成されたということになる。ある程度の収益不動産を持ち、今ではオーナー業だけで豪遊とまではいかないがまぉまぁな生活を成立させる事が出来ているらしい。まったく羨ましい話ではある。 が、年間収入5000万、借金15億…よくわからん、その感覚。15年で借金も無くなると言っていたが、よくわからん。まあ私のような凡人の脳みそでは想像の範囲外で、そこがわからないから私は不動産収益に手を出せないし、魅力もいまいち感じられないのだが。
今回のリタイヤにあたって、奥さんのたっての希望があったらしい。
というのも奥さんがもう不動産嫌なんだと、疲れたんだと。借金早く返して欲しい、そんなに収入いらんから普通の生活で良いから早く借金を清算してほしい。あと連帯保証人も外せと。奥さんの言い分もわからんでもない。が、しかしご本人さんにしてみれば本末転倒、今まで長い時間をかけてようやく築いてきた財産を手放して、今までやってきたことを全否定・・・とまではいかないがもう要らないと言われたのである。リタイヤのイメージとしては奥さんから”今までどうもお疲れさまです!”と感謝されるものだと思っていたのに。本当に気の毒である。
うかない表情の理由がここで分かった。
色々なリタイヤの形があって、全てが円満にいかないものなんだ。何十年も働いてきて、そのエンディングがこれなのか!いや違う!違うと言ってくれーーーーー!と私は心の中で叫んだのであった。
あと急に仕事をしなくなって時間を持て余すという 退職後あるある も悩んでいるらしく、”頭良いのにそこノープランなんかい!!!!" と思わず突っ込んでしまった。
ここで私の適当人間の超適当発言が飛び出した。
猫を飼えばいいんじゃないですかね!(ガッツポーズを添えて)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(そう、猫は人を幸せにするニャーーー)
(嘘だと思うなら飼ってみニャーーー)
とはさすがに言っていませんよ。
まあとりあえずですよ、猫を飼えばいい!!!(まだ言うか・・・)
というか何故この席に私が居るのかが一番謎である。はははははは〜〜