空中ブランコ
駅から会社までの徒歩5分間が好きだ。行きも帰りもこの5分間で気持ちの切り替えをする。一歩一歩会社に近づくにつれ緩やかに母から一人の社会人になってゆく。
母であることと一人の社会人であることのバランスが今は丁度良い。子供達と離れている時間があるから一緒にいるときの時間が濃密になる。母である時があるから一社会人として仕事が出来ることに感謝できる。
胸を張って気持ち上を向くことを意識しながら今日も歩く。
(あーー窓拭いてるなーー、大変な仕事だなーー)
と窓拭き作業中のお兄さんをぼんやり視界に捉えながら歩く。その時の流行りだとかで決められたであろう外壁仕上げ材、全面ブロンズ色のガラス仕上げ、一階エントランス部分はグレーの御影石が貼られた何ともバブリーでよくありそうなオフィスビルだ。なんとなく冴えない外観の中でロープだけでぶら下げられた緊張感のあるお兄さんの表情と黄色いヘルメットが鮮やかに映った。
(どうせならもっとかっこいいビルの窓拭きしたいやんな!)
などと余計なお世話だと突っ込まれそうなことを思いつつ
(朝からお疲れさまです)
と通り過ぎ際に何となく頭を下げてしまった。