関係ねぇーって言ってんだろうが!
ついてくんな!
穏やかではない言葉が聞こえてきた。私は心配で目が離せなくなってしまった。そのセリフを吐き捨てたのは3歳くらいの男の子だったからだ。
秋晴れの午後、息子がベビーカーでグースカ昼寝をしており、それを見守りながら横でボケーっと空を眺めていたら、その言葉が牧場に響いた。すごく怒っている。男の子は地面を見ながらこちらに向かって歩いてくる。20メートルくらい向こうにお父さんとお母さんが立ってこちらを途方に暮れた様子で見ている。そのお父さんとお母さんの様子を見て何となく安心した。
大丈夫だ、きっと。
追いかけてくることも無く、怒って連れ戻そうとするわけでもなく、ただ見守っている。男の子もきっと分かっている、待ってくれることを。でも怒りが収まらない様子でブツブツ言いながら行ったり来たりを繰り返す。怒りすぎて何が何だかわからなくなっている。でも決して両親が見えなくなる所までは離れないお互いが安心の距離感を守りながら…
最初はどうなる事かとヒヤヒヤしたが途中からは何だか微笑ましく思えてきて、何をそんなに怒っているのか知りたくてたまらなくなってきた。私は見ないふりをしながら耳をそばだてていると、ちらほらと親子のやりとりが聞こえてきた。どうやらアイスクリームを食べると言っていたのに、ポニーの乗馬体験の時間が迫ってきて食べられなくなってしまった と言うことらしい。
男の子はきっと、
ポニーの乗馬体験???そんなのしるかー!俺は頼んでないからなっ!それはお前たちが勝手に俺に良かれと思って予約しただけだろ!そんなの関係ねー!!俺はアイスクリームを食べるんだ!今すぐだ!わかったか!わかんねーんだったらついてくんな!馬鹿野郎!
という内容のことで怒っていたのだ。それは怒る。怒り心頭だ。その通りだ、小坊主よ。お前さんは間違っちゃいない。私も子供に対して良く失敗する。親の良かれと思って攻撃。子供にとっては要らないのだ。ポニーの乗馬体験なんて100%いらない。そんなもののためにアイスクリームを我慢するなんて間違っている。大人は嫌なことがあっても上手に断るか、その場を去るか、それ以外のストレス発散方法で何とかその場を凌ぐことが出来るが、子供は怒りに打ちひしがれて泣き叫ぶしか方法を知らない。
結局、親から20メートルという範囲の中でぐるぐるぐるぐる15分ほど回り続け落ち着きを取り戻したのか親の元へ帰った。『小坊主よ、早く大人になれ。』と私は心の中でエールを送った。そして涎を垂らして寝ている息子を見て先程の少年と重ねて苦笑してしまった。近い将来私の身にも降りかかってくるであろう未来を想像して。
そうこうしているうちに先程の親子が戻ってきた。そこにはお父さんとお母さんの間で手を繋いで笑っている少年がいた。
『今からアイスクリーム食べに行こうねー』
良かった!
ここはのどかな牧場だ。最高の秋晴れの空もある。ビールがあれば最高だが、素敵な家族の光景も頂いたことだし、そろそろ父ちゃんと娘の所へいくとするか、と思いっきり背伸びした。